「少しずつ」「少しづつ」。このような言い回しをする時「ずつ」と「づつ」のどちらを使えばいいのでしょうか。正解は次の通りです。
- 【ずつ】正解は「ずつ」。迷ったら「ずつ」を使っていれば間違いない。
- 【ずつ】公用文・新聞・雑誌・学校の教育現場などでは必ず「ずつ」。
- 【づつ】メールや手紙など私的な文書では「づつ」を使っても構わない。
このページでは「ずつ」と「づつ」の違いと正しい使い分け方。その根拠となる内閣告知や「ずつ」と「づつ」の変遷の歴史について解説しています。
「ずつ」と「づつ」の違いと正しい使い分け方を解説
「ずつ」と「づつ」の違いと正しい使い分け方
「少しずつ」「少しづつ」、「一個ずつ」「一個づつ」などの言い回しに使われる「ずつ」と「づつ」。両者の間に意味の違いはありません。まったく同じです。
しかし、「ずつ」と「づつ」の表記の仕方については昭和61年(1986年)に出された内閣訓令で次のように告知されています。
「じ」「ず」を用いて書くことを本則とし(中略)「ぢ」「づ」を用いて書くこともできるものとする。
例 ひとりずつ
出典:「内閣告示・内閣訓令」「 現代仮名遣い」「本文 第2(表記の慣習による特例)」より一部抜粋、庁文国第88号・昭和61年7月1日
上に抜粋した内閣訓示の内容をわかりやすく言うと、基本的には「ずつ」を使いましょう。しかし「づつ」を使っても間違いではありません。このような意味です。
ただし、公文書や新聞・雑誌、学校の教育現場、学校などで行われるテストの解答用紙などでは内閣訓令の本則すなわち「ずつ」の使用が求められています。
またNHKにおいても「ずつ」を正しい表記として統一しているため、大半の人は「ずつ」が正しい表記で「づつ」は誤りと認識しています。
よって、日常生活の中で誰かから間違いを指摘されるのを避けたいのなら迷わず「ずつ」を選びましょう。ただし「づつ」も決して間違いではありません。メールや手紙などの私的な文書などで「づつ」を使っても差し支えありません。
「ずつ」が正解。しかし「づつ」も間違いではない。
これが「ずつ」と「づつ」の正しい使い分け方ですが、そもそもこれほど複雑なルールができたのは何故なのでしょうか。その背後には次に述べるような歴史があるのです。
「ずつ」と「づつ」二通りの表記がある歴史的背景
学校の古文などで習う昔の文学作品の中で「今日」を「けふ」と書き、「蝶」を「てふ」と書くことはご存知かと思います。
この「けふ」や「てふ」など終戦直後の頃までに用いられていた表記を「歴史的仮名遣」または「旧仮名遣」と呼び、それに対して現代人が使っている「今日」を「きょう」、「蝶」を「ちょう」と書く表記を「現代仮名遣い」と言います。
ところで「ずつ」と「づつ」の二通りの表記。実は「ずつ」が「現代仮名遣い」なのに対して「づつ」が「歴史的仮名遣」です。
「けふ」や「てふ」など「歴史的仮名遣」のほとんどは現代人の日常生活の中から姿を消しましたが、わずかに現代にも残っている「歴史的仮名遣」の一つが「づつ」なのです。
ちなみに、終戦直後までは「歴史的仮名遣」の「づつ」が使われていましたが、昭和21年(1946年)に定められた「現代仮名遣い」の中で「ずつ」に統一。
しかし、その40年後の昭和61年(1986年)。上に述べた通り「ずつ」と「づつ」の両方の表記が認められるようになったという経緯があります。
昭和21-61年(1946-86年):「ずつ」
昭和61年(1986年)以降:「ずつ」「づつ」
「づつ」の語源は二つの説があります。一つは「一つ」「二つ」の「つ」が重なって「つつ」となり「づつ」に変化したという説。もう一つは「筒」を語源とする説ですが、そもそもどうして数を表す言葉が「筒」になったのかは定かではありません。しかし「一つ」「二つ」の「つつ」にせよ意味不明の「筒」にせよ、現代仮名遣いの「ずつ」よりも歴史的仮名遣の「づつ」の方が語源に近いと言えましょう。
「ずつ」と統一された背景にある「じ、ぢ、ず、づ」の表記ルール
「じ」と「ぢ」、「ず」と「づ」。
声に出して発音するとまったく同じながら、文字に書き起こすと二通りの表記が存在することになる「じ、ぢ、ず、づ」。
これらの表記ルールが「現代仮名遣い」の中で定められました。
ルールを大雑把に説明すると基本的には「じ」と「ず」を使い、一部の言葉には「ぢ」と「づ」を使う。
この「ぢ」と「づ」を使う一部の言葉には、以下の3つのパターンが挙げられています。
【1】同音が続く場合
「ちぢむ」「ちぢれる」「つづく」「つづる」など同音が続く場合は「ぢ」と「づ」が使われます。ただし「いちじく」「いちじるしい」は例外。
【2】二語がつながることで「ち」や「つ」に濁点がついてしまう場合
「血」は「ち」と発音しますが、「鼻」と組み合わさった場合「ち」に濁点がついて「はなぢ」となります。「はなち」とは発音しません。
このような場合、「はなじ」ではなく「はなぢ」と書き表します。
二語がつながる中で「ち」や「つ」に濁点がついてしまうケースは他に、「間近(まぢか)」「近々(ちかぢか)」「ちりぢり」、「竹筒(たけづつ)」「手綱(たづな)」「つくづく」などがあります。
【3】二語を分解できない場合は「じ」「ず」が本則、「ぢ」「づ」は許容範囲
二語がつながった言葉のうち、二語を分解しにくい言葉は基本的には「じ」や「ず」を使いつつも「ぢ」と「づ」の使用も認め、「づつ」はこの中で使用が認められました。
二語を分解しにくい言葉の例として次のようなものがあります。
「世界中(せかいじゅう)」「稲妻(いなずま)」「融通(ゆうずう)」「つまずく」「うでずく」「ひとりずつ」
「ずつ」と「づつ」辞書で解説されている意味と漢字表記
参考までに国語辞典の王様『広辞苑』では「ずつ」は下記の引用のように解説されています。ちなみに『広辞苑』に「づつ」は掲載されていません。
【ずつ】
①分量を表す語について一定量の事物を割り当てる意を表す。
②一定量の事物についてその分量だけを繰り返し行う意を表す。
出典:岩波書店『広辞苑』
なお、上記の意味を持つ「ずつ」と「づつ」は漢字では「宛」と表記し、以下のように用います。
【一個宛】「一個ずつ」「一個づつ」
「ずつ」と「づつ」の違いと正しい使い分け方、まとめ
「ずつ」と「づつ」の違いと正しい使い分け方、このページの解説でおわかりいただけましたでしょうか。
最後にもう一度、正しい使い分けのポイントを以下に記します。頭の中の整理にご活用ください。
- 【ずつ】が正解。公用文、学校のテストではこれを使う。
- 【づつ】メールや手紙など私的な文書で使って問題ない。