ビジネスシーンにおいて、相手からの申し出や提案を受け入れる際に使用される「お言葉に甘えて」という表現は、日本語特有の謙譲の美徳を表す重要な敬語表現です。
しかし、同じ表現を繰り返し使用することで、文章が単調になったり、相手に対する配慮が薄れて見えたりする可能性もあります。
本記事では、「お言葉に甘えて」の正しい意味と使い方を理解し、様々な場面で適切に言い換えられる表現方法について詳しく解説していきます。
「お言葉に甘えて」の意味
「お言葉に甘えて」は、相手からの好意的な申し出や提案を受け入れる際に使用する謙譲語です。この表現には複数の意味合いが込められています。
まず、文字通りの意味として
- 「相手の言葉(申し出・提案)に依存する」
- 「相手の好意に頼る」
という意味があります。
しかし、単に依存するという意味ではなく、相手の好意を認識し、それに対する感謝の気持ちを表現しながら、申し出を受け入れるという丁寧で謙虚な姿勢を示すことができるのが特徴です。
この表現の背景には、日本の文化的な価値観である「遠慮」と「謙譲」の精神が深く根ざしています。
一度は遠慮の気持ちを示しつつも、相手の好意を無下にしないよう、感謝を込めて受け入れるという、相手への配慮と敬意を同時に表現する非常に洗練された言い回しです。
ビジネスシーンでは、上司からの提案、取引先からの申し出、同僚からの協力の申し出などを受け入れる際に頻繁に使用されます。
この表現を適切に使用することで、相手に対する敬意と感謝の気持ちを伝えながら、円滑な人間関係を築くことができるでしょう。
「お言葉に甘えて」の例文
ここからは、「お言葉に甘えて」を使った例文を紹介していきます。
例文1:上司からの提案を受け入れる場合
「この度は貴重なご提案をいただき、誠にありがとうございます。お言葉に甘えて、来月の新規プロジェクトのリーダーを務めさせていただきたく存じます。責任を持って取り組み、必ずや期待にお応えできるよう努力いたします。」
この例文では、上司からのプロジェクトリーダーの提案を受け入れる際の表現です。感謝の気持ちを示しながら、責任感を持って取り組む意思を併せて表現しています。
例文2:取引先からの招待を受ける場合
「この度は貴重な懇親会にお招きいただき、心より感謝申し上げます。お言葉に甘えて、ぜひ参加させていただきたく存じます。貴社の皆様との交流を深められる貴重な機会をいただき、誠にありがとうございます。」
取引先からの懇親会への招待を受ける際の例文です。感謝の気持ちと共に、交流を深めたいという前向きな姿勢を表現しています。
例文3:同僚からの協力申し出を受ける場合
「お忙しい中、私の業務についてご協力のお申し出をいただき、誠にありがとうございます。お言葉に甘えて、資料作成の件でお手伝いをお願いできればと思います。おかげさまで、より質の高い成果物を作成できそうです。」
同僚からの協力申し出を受け入れる際の表現です。相手の忙しさに配慮しながら、協力への感謝を示しています。
例文4:お客様からの特別な配慮を受ける場合
「この度は納期の件で特別なご配慮をいただき、誠に恐縮でございます。お言葉に甘えて、提示いただいた新しいスケジュールで進めさせていただきます。ご迷惑をおかけしないよう、品質管理には十分注意を払い、確実に納品いたします。」
お客様からの納期延長などの配慮を受ける際の例文です。恐縮の気持ちと確実な実行への意志を表現することができます。
例文5:研修機会の提供を受ける場合
「この度は貴重な研修機会をご提供いただき、心より感謝いたします。お言葉に甘えて、来月の海外研修に参加させていただきたく存じます。得られた知識や経験を必ず業務に活かし、チーム全体の成長に貢献できるよう努めます。」
研修機会の提供を受ける際の表現です。学習への意欲と、それを活かす意志を明確に示すことができるでしょう。
「お言葉に甘えて」を使用する際の注意点について
「お言葉に甘えて」を適切に使用するためには、いくつかの重要な注意点があります。
タイミングと状況の判断をしなければいけないという点です。
この表現は、相手から何らかの申し出や提案があった場合にのみ使用します。自分から何かを要求する際には使用できません。
また、相手の申し出が本当に好意的なものであるかを慎重に判断する必要があります。義務的な申し出や、断りにくい状況での申し出に対して使用すると、相手に負担をかける可能性もあります。
感謝の気持ちも合わせて表現する必要がある
「お言葉に甘えて」を使用する際は、必ず感謝の気持ちを併せて表現することが重要です。
単に申し出を受け入れるだけでなく、相手の好意に対する感謝を明確に示すことで、より丁寧で心のこもった表現になります。
頻繁な使用は避ける
同じ相手に対して「お言葉に甘えて」を頻繁に使用すると、依存的な印象を与える可能性があります。様々な言い換え表現を使い分けることで、より豊かなコミュニケーションを行うことができます。
文脈に応じた調整
ビジネスの場面や相手との関係性に応じて、表現の丁寧さを調整することも重要です。
より正式な場面では、より丁寧な敬語表現を併用し、親しい同僚との間では、適度にくだけた表現を使用することで、自然なコミュニケーションができるでしょう。
「お言葉に甘えて」の言い換えについて

「お言葉に甘えて」には、状況や相手との関係性に応じて使い分けられる様々な言い換え表現があります。
以下に、主要な言い換え表現とその使用場面について詳しく解説します。
ありがたく頂戴します
「ありがたく頂戴します」は、相手からの申し出や贈り物を感謝の気持ちを込めて受け取る際に使用する表現です。
「頂戴」という謙譲語を使用することで、相手への敬意を明確に示すことができます。
例:「貴重な資料をありがたく頂戴します。必ず有効活用させていただきます」
この表現は、物理的なものから情報や機会まで、幅広い場面で使用できる汎用性の高い言い換えです。
ありがたく受け取らせていただきます
「ありがたく受け取らせていただきます」は、より丁寧で謙譲の度合いが高い表現です。
「させていただきます」という表現を加えることで、相手の許可を得て受け取るという謙虚な姿勢を強調できます。
例:「この度のご提案をありがたく受け取らせていただきます。十分に検討し、良い結果をお返しできるよう努力いたします。」
正式な商談や重要な提案を受ける際に適している表現です。
そうさせていただきます
「そうさせていただきます」は、相手の提案や指示に従う意志を示す際に使用する簡潔で実用的な表現です。直接的でありながら敬語の形を保っているため、ビジネスメールで頻繁に使用されます。
例:「ご指摘いただいた点について修正いたします。そうさせていただきます」
迅速な対応を求められる場面や、シンプルに同意を示したい場合に効果的です。
ご厚意に甘えて
「ご厚意に甘えて」は、「お言葉に甘えて」と非常に近い意味を持つ表現で、相手の親切心や好意を受け入れる際に使用します。「厚意」という言葉が相手の思いやりを明確に認識していることを示します。
例:「この度はご厚意に甘えて、お食事をご一緒させていただきます。貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございます。」
相手の人柄や親切心を評価していることを伝えたい場面で効果的です。
ご親切に甘えて
「ご親切に甘えて」は、相手の親切な行為や申し出を受け入れる際に使用する温かみのある表現です。人間関係の親密さを表現しながらも、適切な敬語を維持しています。
例:「お忙しい中、ご親切に甘えて送迎をお願いいたします。おかげさまで安心して会議に参加できます」
個人的な親切や配慮を受ける際に、相手の人柄への感謝を込めて使用します。
喜んでお受けします
「喜んでお受けします」は、相手の申し出を前向きで積極的な姿勢で受け入れることを表現します。感謝だけでなく、その機会への期待や意欲も同時に伝えることができます。
例:「新しいプロジェクトへの参加機会を喜んでお受けします。チャレンジングな内容ですが、必ず良い成果を出せるよう全力で取り組みます」
新しい挑戦や機会を提供された際に、ポジティブな印象を与えたい場合に適しています。
ご好意に甘えさせていただきます
「ご好意に甘えさせていただきます」は、相手の好意的な気持ちを認識し、それを受け入れる際の丁寧な表現です。「させていただきます」を加えることで、謙譲の度合いを高めています。
例:「この度のご招待につきまして、ご好意に甘えさせていただきます。素晴らしい機会をいただき、心より感謝申し上げます」
正式な招待や特別な機会を提供された際に使用する、格式の高い表現です。
遠慮なく使わせていただきます
「遠慮なく使わせていただきます」は、相手から何かを使用する許可や機会を得た際に使用する表現です。「遠慮なく」という言葉により、相手の申し出を全面的に受け入れる意志を示します。
例:「会議室をお貸しいただけるとのこと、遠慮なく使わせていただきます。設備の整った環境で、効果的な会議が開催できそうです」
施設や設備の使用許可を得た際に、感謝と共に有効活用する意志を示す表現です。
ご提案を拝受いたします
「ご提案を拝受いたします」は、相手からの提案を正式に受け取ることを表明する、非常に丁寧で格式高い表現です。
「拝受」という謙譲語を使用することで、最高レベルの敬意を示します。
例:「貴社からの協業に関するご提案を拝受いたします。内容を十分に検討し、近日中に回答させていただきます。」
重要なビジネス提案や正式な申し出を受ける際に使用する、最も格式の高い表現の一つです。
これらの言い換え表現を適切に使い分けることで、相手や状況に応じた最適なコミュニケーションが可能になります。
単調な表現を避け、豊かで適切な日本語を使用することで、ビジネスシーンでの信頼関係構築により効果的に貢献できるでしょう。