当たり前の意味は?
「当たり前」の読みは、「あたりまえ」で、『実用日本語表現辞典』には「一般的に広く認識されており、疑問を持たれることが少ない事象や状態を指して使われる言葉です。
社会的な常識やルール、自然の法則など、特別な説明を必要とせず、多くの人々が共有する認識や価値観を表す言葉です」と記載されています。
また、他の辞書でもほぼ同様の意味が記載されています。
当たり前の語源
当たり前の語源について、『広辞苑』等では以下のように記載されています。
当たり前と同義の言葉に「当然」との言葉があり、この言葉は中国では2000年前にすでに多くの文献に記載があり、日本にも漢文が入ってきた際に伝わった言葉です。
「誤字・当て字」説
日本においては、もともと書き言葉は上層階級・知識人のものでしたが、江戸時代後半になると、庶民の間でも識字人口が急激に増えてきました。
それに伴って誤字・当て字が横行するようになり、「当然」が誤記から「当前」と書かれることが増え、この「当前」を訓読みした「当たり前」が使われるようになったというものです。
「当然」の熟語の「当」の漢字には「道理にかなう」との意味があり、また「然」には「しかり、そのとおり」との意味があるので、先に記した「当たり前」の意味となるのです。
しかし、「前」の漢字には「当」の漢字に似た意味もなく、また「然」の漢字のように、直前の言葉を肯定する意味もなく、「当前」との言葉は意味が解らず、先の語源で書かれたとおり、誤字・当て字の類であることが分かります。
一方でこの当たり前の語源として、別の説もあります。
「分け前・取り前」説
それは、分配される分を「分け前」と表現し、取り分を「取り前」と言うのと同様に、漁や狩りなどの共同作業で、一人当たりの取り分を「当たり前」と表現されることがあります。
この「当たり前」の表現には共同作業に携わった者がそれを受け取るのは当然の権利であるとのニュアンスがあることから、「当然」の意味を持つようになったという説です。
前者の説の方が、説得力があるように感じますが、いかがでしょうか。
ちなみに、当たり前は先のとおり、誤記・当て字により誕生した言葉と言うことですが、もちろん現在では正しい日本語として使うことに何ら問題はありません。
当たり前の使い方・例文について
自然の法則
当たり前の使い方として、まず「自然の法則から説明するまでもないとの意味で使われる例文」として以下が挙げられます。
- 「太陽が東から上り、西に沈むのは当たり前のことです」
- 「物は地球の引力により落下するのは当たり前で、これは万有引力の法則として知られています」
- 「人間は、適度な水分と食料を摂取しないと生きていけないのは当たり前です」
社会的な常識・ルール
次に、「社会的な常識やルールが定着しているとの意味で使われる例」としては、単に当たり前であることを表現する例文としては以下が挙げられます。
- 「日本では車は左側、人は右側通行をすることは当たり前です」
- 「小中学校は義務教育で、親は子供にこの教育を受けさせる義務があるのは当たり前です」
また、「当然の権利であるとの意味で使われる例」としては以下が挙げられます。
- 「選挙権は男女にかかわらず、成人に与えられる当たり前の権利です」
- 「弊社では週休2日制が当たり前で、正規・不正規に関わらず全ての社員に適用されています」
さらに、「当たり前のことを知らなかったり、わきまえていないことを非難する意味や、常識がないとあきれる表現として使われる例文」としては、下記が挙げられます。
- 「彼は社会人として当たり前のことができない」
- 「彼女は定時になると、当たり前のようにさっさと退社します」
- 「当たり前のことが全く通じない非常識な人への対応は大変です」
当たり前を使う際の注意点

当たり前の意味はそれほど難しくはなく、また使い方も上記のようによく使われている言葉で、広く定着しています。
そんな言葉である当たり前は、一方では使用する際に注意を要する言葉なのです。
この点について、次に少し詳しく説明します。
知らない人もいる
一つ目は、上記の最初に示した自然現象であっても、知らない人にとっては当たり前でないことがある点です。小学生なら誰もが知っていることでも、幼児にとっては当たり前でないことがあります。それと同様に、教育等によってその集団では当たり前で、自明の自然現象や物理的原理であっても、社会全体では当たり前でないことがあるのです。この点をよく理解して、当たり前の言葉を使うことが大切と言えるのです。
エリアによってルールも違う
二つ目は、その国の法律をベースに、広く定着している事柄でも、外国等では当たり前でないことがある点です。先の例文で「日本では車は左側、人は右側通行をすることは当たり前です」を示しましたが、これはご存知の通り、アメリカ等の多くの国では逆のルールになっており、当たり前ではないのです。また、宗教の違いや、習慣の違い等でも当たり前は違ってきます。したがって、これを認識して先の例文のように「日本では」や「弊社では」等の前提条件を冒頭に付けて使うことも誤解を招かないために大切と言えます。
また三つ目に、当然の権利として使われる場合にも、その権利は国によっては保障されていないこともあります。また週休二日制などの制度は、ある会社では長く続けられており、当たり前の権利だと認識されている場合がありますが、他の会社では当たり前でないことも少なくないのです。
以上のように、当たり前は、人の知識レベルや国や組織・集団によって異なり、また技術の進歩や社会全体の思想信条の変化等に応じて、時代と共に変化するものであること認識して使う必要があるのです。
時代の技術進歩によって「当たり前」も変わってくる
現在では、会社内の書類の作成にパソコンを使ったり、様々な手続き等をイントラネットで行ったり、連絡は電話よりもメールが頻繁に使われており、それが当たり前になっていますが、30年前にはまだ当たり前ではなかったのです。
企業の国際化が進む中で、外国人と打ち合わせをしたり、交渉したり、一緒に仕事をする場面が益々増え続けるでしょう。そんな際には、ビジネスマンは当たり前が全世界的に普遍的でないことを認識することが強く求められるのです。
また、時代変化により当たり前は変化することから、世代間でも異なることを認識することも大切です。
しかし、こうしたケースとは全く違って、本人が当たり前とは思っていないのに、この言葉を使うことが稀にあります。例えば、「当たり前のことを聞くなよ」や「そんなことは当たり前だろう」等と、相手の質問や意見を遮るために使われることがあるのです。
面倒なことから、相手の質問や意見をバッサリと切り捨てる表現として使われるものです。多忙な上司が、部下に対して使うことのある表現です。しかし、これでは部下の信頼を失うだけでなく、こうしたことが度重なると、パワハラと言われても仕方ないと言えます。
多忙で、すぐに相手と話せない場合は、その旨を部下に伝えて、少し余裕ができた時に話しに応じるといった表現に変えて対応すべきです。こうした話をバッサリと切り捨てる使いかは決してしないよう注意することも大切でしょう。
当たり前の「類語」は何?

当たり前の類語としては、この言葉のもととなっている「当然」の他、「人並み」や「何の変哲もない」や「平凡」や「世間並み」や「ありきたり」等が挙げられます。
また、ビジネスでは少し改まった「言うまでもなく」や「当然」や「もとより」や「自明のことだが」や「無論のこと」等が類語としてよく使われます。
次に、ビジネスシーンで類語としてよく使われる言葉や表現について、当たり前と対比しつつ、その意味やニュアンスの違いについて解説します。
「当たり前」類語一覧
- 「言うまでもなく」は、わざわざ言ったり、説明する必要がないとの意味で、それほどよく知られている、広く認識されているとの意味の表現です。
- 「当然」は、「当たり前」のもととなった漢語調の言葉で、ほぼ同じ意味の言葉だと言えます。ただし、漢語調の言葉の方が硬い表現となるので、二つの言葉を上手に使い分けると良いでしょう。
- 「もとより」の意味には「初めから、以前から、もともと」といった意味と「言うまでもなく、もちろん」との意味があります。後者の意味は「当たり前」と同じ意味だと言えます。
- 「自明のことだが」の表現における「自明」の読みは「じめい」で、「特に証明などをしなくても明らかであること、わかりきっていること」を意味し、その後ろに続く「ことだが」は「自明」であることが分かっていて、敢えて説明する場合や述べる場合等に添えられる言葉です。
- 「無論のこと」における「無論」は、「論じる必要がない」との意味で、「無論こと」で、「敢えて述べるまでもない」との意味になるのです。
当たり前のビジネスで言い換え例を紹介
前項では、ビジネスでよく類語として使われる言葉や表現を説明しましたが、さらに「当たり前」とのニュアンスや使い方の違いの理解を深めるために、類語を使った言い換え表現例を挙げます。
一例として、「上司に対して報告・連絡・相談を適時行うことは部下として当たり前のことです」の文章を、それぞれの類語を使った文章に言い換えてみます。
「言うまでもなく」を使った言い換え表現例
「上司に対して報告・連絡・相談を適時行うことは、部下として言うまでもなく必要なことです」
「当然」を使った言い換え表現例
「上司に対して報告・連絡・相談を適時行うことは部下として当然のことです」
「もとより」を使った言い換え表現例
「上司に対して報告・連絡・相談を適時行うことは部下としてもとよりのことです」単純に置き換えると上記になりますが、これでは少し微妙な表現と言え、「上司に対して報告・連絡・相談を適時行うことは部下としてもとより必要なことです」や「上司に対して報告・連絡・相談を適時行うことは、もとより部下として必要なことです」等と言い換えた方が良いでしょう。
「自明のことだが」を使った言い換え表現例
この類語を使う場合は、「当たり前」をそのまま置き換えると変な日本語となってしまいます。これは「自明なことだが」の最後に逆接の接続詞が付けられた表現であるために、文章の冒頭に持って来るのが一般的で、「自明のことだが、上司に対して報告・連絡・相談を適時行うことは部下として大切なことです」と言い換えるのが良いでしょう。また「自明」との類語を活用して「上司に対して報告・連絡・相談を適時行うことは部下として自明の責務です」等と言い換えることも可能です。
「無論のこと」を使った言い換え表現例
「上司に対して報告・連絡・相談を適時行うことは部下として無論のことです」と単純に置き換えても意味は通りますが、「上司に対して報告・連絡・相談を適時行うことは部下として無論のことだと言えます」とした方が伝わりやすいかも知れません。
まとめ
「当たり前」とは、「一般的に広く認識されており、疑問を持たれることが少ない事象や状態」を指して使われる言葉です。
「社会的な常識やルール、自然の法則など、特別な説明を必要とせず、多くの人々が共有する認識や価値観」を表す言葉だと言うこともできます。
この当たり前は、人の知識レベルや国や各種組織・集団によって異なります。また技術の進歩等や社会全体の思想信条の変化等に応じて、時代と共に変化するものでもあります。
したがって、この当たり前の言葉を使う際には、こうした点に注意して相手や場面に応じて適切に使う必要があるでしょう。