「上る」「登る」「昇る」はどれも「のぼる」と読みますが、少しずつ意味が違います。それぞれの違いをまとめると、以下のようになります。
- 上る:低いところから高いところへ進むこと(「登る・昇る」が持つ意味以外のすべて)
- 登る:労力を費やして、高いところに一歩一歩進むこと
- 昇る:自然と高いところに進むこと、空にあがること
このページでは「上る」「登る」「昇る」の違いについて、詳しい意味と具体的な使い方とともにわかりやすく解説しています。
「上る」「登る」「昇る」の意味と例文
まず、「上る」「登る」「昇る」の辞書での意味を確認しておきましょう。
のぼる【上る・登る・昇る】
1.(上・登)ある所を通って下方から上方へ移動する。また、移動して上方に至る。
2.(上)地方から都へ行く。上洛じょうらくする。上京する。
3.(上)〔古い言い方で〕宮中に参上する。参内さんだいする。参殿する。上がる。
4.(上・登・昇)高い地位につく。昇進する。
5.(昇・上)太陽・月などが空に高く現れる。
6.(昇・上)煙・気球などが空中を移動して上方に至る。
7.(上)<「頭に血が━」「気が━」の形で>のぼせる。逆上する。
8.(上)あるものが相当の数量に達する。
9.(上)話題や議題として取り上げられて公の場に出される。
10.(上)ある事柄が意識に現れたり脳裏に浮かんだりする。
11.(上)料理として出される。供される。出典:『明鏡国語辞典』
辞書では「上る」「登る」「昇る」は同じ項目で説明されています。項目ごとに「上・登・昇」のどの漢字を使うのかが示されていますが、「上・登」のどちらの漢字を使っていい場合もあれば、三つのどれを使ってもいい場合もあります。
とは言え、気まぐれにどれでも使っていいわけではありません。それぞれの意味の違いや使い方をより詳しく見ていきましょう。
「上」「登」「昇」の漢字の意味
言葉の意味を知るときには、漢字の意味を知るとよりわかりやすくなりますので一つ一つ見ていきたいと思います。
まず、「上」からです。一番下の横線が基準線で、その上にもう一本短い横線を引いた「二」のような記号が徐々に変化して「上」になりました。もともとは位置や順序を表すものでしたが、高いほうへ行くという意味も持つようになりました。
次に、「登」です。「豆」の部分は上側が食物を盛る器で、下側はそれを持ち上げる両手を表しています。「癶」は八の字に開いた両足で、足を踏みしめる様子です。「登」は器を両手で持ち上げて、両足を踏みしめながら上に進む様子を表しています。
では、最後に「昇」です。下側の「升」は穀物や液体をすくう柄つきのひしゃくを手に持った様子で、すくい上げるという意味を持っています。「日」は太陽を表しています。「日」と「升」とくっつくことで、太陽が昇る、上にあがるという意味を持つようになりました。
このように同じ「のぼる」と読む漢字でも、成り立ちが違います。「上る」「登る」「昇る」を使い分ける時には、この成り立ちの違いがヒントになります。
では、「上る」「登る」「昇る」の使い分け方を例文を見ながら確認していきましょう。
「上る」の意味と例文
「上」はもともと記号であったことから、「上る」も特別な意味は持っていません。そのため、以下の例文のように高いほうへ行くとか上へ進むという意味があれば、どのような場合でも「上る」を使うことができます。
・エレベーターがかなりの速度で上ってゆく。
それだけでなく「話題にのぼる」「食卓にのぼる」「50億円にものぼる」のような場合に使われる「のぼる」にも「上」の漢字を使います。
もう一度、先ほどの辞書の意味を見てみてください。どの意味の場合にも「上」が使えることになっていますよね。つまり、「のぼる」を漢字にするときに悩んだら「上る」を使えば問題はないということです。
でも、「登る」「昇る」にもその漢字を使うからこそ伝えられることがあります。これらの使い分け方を理解しておけば、表現がより豊かになるので確認しておきましょう。
「登る」の意味と例文
「登」は、両足を踏みしめながら上に進む様子を表していることから、「登る」は高い所へ向かって一歩一歩踏みしめながら進んで行くことや、労力を費やして上にあがって行くことを表すときに使います。最もぴったりなのは「山を登る」です。その他にも、以下のような例文では「登る」が最適です。
・遂に甲子園のマウンドに登った。
木に登るのは簡単ではなく大変ですよね。そのため「登る」がぴったりです。また、「マウンドに登る」は、物理的にはマウンドが高いところにあるわけではありませんが、そこにたどり着くまでにたくさんの練習と苦労があることから「登る」を使います。「登板する」という漢語が、使い分けのヒントになるのではないでしょうか。
その他にも「登山」「登頂」「登壇」などがありますが、それらも漢語表記にならって「山に登る」「頂上に登る」「壇上に登る」と書くのが一般的です。
「昇る」の意味と例文
「昇」は、太陽が昇る様子を表していることから、空に向かって高くあがることを表すときに用いられます。例文を見てみましょう。
・煙突から煙が昇っている。
また、日が昇るのが当然のことであるように、自然とそうなることや順番に上へ移動することを表す場合にも「昇」が用いられます。例えば、以下のような階級や役職が上がる場合です。
・地位が昇るほど謙虚でなければならない。
現代社会では自然と昇進するということは無くなってきていますが、漢字だけは「昇進」「昇級」「昇格」のように「昇」が使われており、上記のような文の場合にも「昇る」を使います。
「上る」「登る」「昇る」の使い分け
ここまで「上る」「登る」「昇る」の意味の違いを見てきましたが、辞書の説明では、一つの意味に対して二つの漢字や三つの漢字が使える場合もありましたよね。そのような時にはどう使い分ければいいのでしょうか。
例えば、辞書の説明では「1.(上・登)ある所を通って下方から上方へ移動する。また、移動して上方に至る。」となっているので、「階段をのぼる」は「上る/登る」のどちらを使ってもいいことになります。
この場合、階段をあがることを単なる動きとして言いたいのであれば「上る」、苦労してのぼったことが言いたいのであれば「登る」を使うといいと思います。
・神社に進む長い階段をなんとか登りきった。
また、「上る」の説明のところで「エレベーターがかなりの速度で上ってゆく。」という例文を出しましたが、これは「昇る」でもいいのではないかと思ったかもしれません。
確かにそうです。辞書に「6.(昇・上)煙・気球などが空中を移動して上方に至る。」と書かれているように、空の方向に上がっていく場合には「上る/昇る」のどちらを使っても大丈夫です。
「エレベーター」が単に上に移動する機械であることを説明するのであれば「上る」、空の方向に向かってすうっと上昇していく様子を表したければ「昇る」を選んでください。
「上る/登る/昇る」は、どういうイメージを伝えたいかで使い分ければいいのです。
「上る」「登る」「昇る」の練習問題
では、最後に練習問題をしてみましょう。
以下の場面に合うように「上る」「登る」「昇る」を選んでください。どれも一回しか使えません。最も適切なものを選んでみてください。答えは、記事の一番最後にあります。
2.共通の知り合いのことが話題に(のぼった)。
3.天にも(のぼる)気持ちとはこのことだ。
「上る」「登る」「昇る」の違い、まとめ
「上る」「登る」「昇る」の違いと正しい使い分け方、このページの解説でおわかりいただけましたでしょうか。最後にもう一度、正しい使い分けのポイントを以下に記します。頭の中の整理にお役立てください。
- 上る:低いところから高いところへ進むこと(「登る・昇る」が持つ意味以外のすべて)
- 登る:労力を費やして、高いところに一歩一歩進むこと
- 昇る:自然と高いところに進むこと、空にあがること
<練習問題の答え>
1.登る 2.上った 3.昇る