「拝啓」「謹啓」「前略」は、どれも「頭語」で手紙の一番始めに書く言葉です。人と人が直接会うとあいさつをしますが、「頭語」は手紙でのあいさつのようなものです。
「拝啓」「謹啓」「前略」は、敬意の度合いが異なるので使い方には注意が必要です。また、「結語」と呼ばれる手紙の最後に書く言葉とセットで使うので、その組み合わせも知っておく必要があります。敬意の度合いの違いと「頭語・結語」の代表的な組み合わせをまとめると、以下のようになります。
敬意 | 頭語 | 意味のイメージ | 結語 | 意味のイメージ |
高 ↑ ↑ ↑ ↑ 低 | 謹啓 | 「つつしんで申し上げる」と控えめな態度であいさつをする | 謹白 | 「包み隠さず真実を申し上げた」とあいさつをする |
謹言 | 「控えめに申し上げた」とあいさつをする | |||
拝啓 | 「つつしんで申し上げる」と丁寧にお辞儀をしてあいさつをする | 敬具 | 書き終わった手紙を丁寧に差し出す様子 | |
前略 | 「初めに書くべきあいさつを省略する」と述べる | 草々 | 「急いでざっと書いたので申し訳ない」と詫びる |
このページでは「拝啓」「謹啓」「前略」の違いについて、詳しい意味と具体的な使い方とともにわかりやすく解説しています。
「拝啓」「謹啓」「前略」の意味と使い方
まず、「拝啓」「謹啓」「前略」の辞書での意味を確認しておきましょう。
【拝啓】
〔「つつしんで申し上げる」の意で〕手紙文の始めに記して相手に敬意を表すあいさつのことば。
【謹啓】
〔「つつしんで申しあげる」の意で〕手紙の最初に書くあいさつの語。〔「拝啓」よりも、あらたまった場合に使う〕
【前略】
〔引用文などの〕前の部分をはぶくこと。
〔季節のあいさつなど形式的な前文をはぶく意で〕手紙の最初に書きしるす語。
出典:『学研国語大辞典』
「拝啓」の意味と使い方
では、まず「拝啓」について詳しく見てみましょう。
「拝啓」の「拝」は、「整ったささげ物+手」の形です。神前や身分の高い人の前に贈り物をささげ、両手を胸もとで組んで敬礼をする様子を表していて「丁寧にお辞儀をする」イメージです。「啓」は、「戸+攵(て)+口」で、閉じた戸を手で開くことや、戸を開くように閉じた口を開くことを表しています。そこから「意見や考えを述べる」という意味になりました。
この二つの漢字が組み合わさった「拝啓」は、「丁寧にお辞儀をして述べる・あいさつをする」ことを表しています。
人と人が会った時にあいさつをするのは基本です。あいさつをすることで、敬意を表したり安否を気づかったりして、お互いの良い関係を作り維持していくことができます。直接会った時だけではなく手紙の場合にも必要だと考えられ、「頭語」と呼ばれるあいさつを簡略化した言葉が使われるようになりました。
「拝啓」と「敬具」の意味と使い方
では、「拝啓」とともに使われる結語も確認しておきましょう。あいさつは会ったときだけでなく別れる時もしますが、手紙での別れのあいさつが「結語」です。
「拝啓」とセットで使われる代表的な結語は「敬具」です。
「敬具」の「敬」は「苟(引き締める)+攴(動詞の記号)」からできていて、はっとして身体を引き締める様子を表しています。「具」は、鼎(かなえ)という三本足の器の下に両手を添えて差し出す様子を表していて、「そろえる、ひとそろい」という意味を持っています。
この二つの漢字の組み合わせからできている「敬具」は、書き終わった手紙を丁寧に差し出しているイメージを持っています。
「謹啓」の意味と使い方
では、次に「謹啓」について見てみましょう。
「謹啓」の「謹」の右側の字は、上半分は人が腰に黄色の玉を付けている様子を、下半分は固めた土を表していて「粘土をねりこめる」という意味を持っています。その左側に「言」が付いた「謹」は「言葉をねりこめて控えめにする」という意味です。「啓」は、先にも書いたように「意見や考えを述べる」という意味ですから、「謹啓」は「控えめにあいさつをする」ことを表しています。
「謹啓」は、「丁寧にお辞儀をして述べる・あいさつをする」ことを表す「拝啓」よりもより丁寧です。目上の人や改まった手紙を送る際には、「謹啓」を使います。
「謹啓」と「謹言」「敬白」の意味と使い方
「謹啓」とともに使われる代表的な結語は、「謹言」や「謹白」です。「謹言」も「謹白」も「控えめに申し上げた」ということを表している点で大きな差はありませんが、あえて比べるならば「謹白」のほうが「謹言」よりも敬意の高い結語です。
「白」は、無色であることや何もないことを意味していますが、そこから隠し事のない真実の状態を表すようにもなりました。目上の人に「包み隠さず真実を申し上げた」と伝えることは大変高い敬意を表した表現だと言えます。
「前略」の意味と使い方
では、最後に「前略」について見てみましょう。
「前略」は、その漢字が示している通り「前の部分を省略する」という意味です。手紙の頭語として使われる場合には、「初めに書くべきあいさつの文を省略する」ことを表します。あいさつをしないわけですから敬意の度合いは低く、目上の人に「前略」を使うと失礼になるので気を付けなければなりません。ただ、急いで用件だけを伝えたい場合やあいさつを省略しても良い関係である場合には、目上の人にでも「前略」を使うことはできます。場面や関係性によって判断していきましょう。
「前略」と「草々」の意味と使い方
「前略」とともに使う代表的な結語は「草々」です。「草」という漢字は、「いくらでも生えてくる雑草のように上等ではないもの、たいしたものではない間に合わせのもの」という意味を持っています。そこから「急いでざっと書いたもので申し訳ない」という意味を持つ「草々」という頭語ができました。
急いで用件だけを伝える手紙には、「前略=初めに書くべきあいさつの文を省略する」と断りを述べ、最後に「草々=急いでざっと書いたもので申し訳ない」とお詫びを述べて終わるということになります。
「拝啓」「謹啓」「前略」の違い、まとめ
「拝啓」「謹啓」「前略」の違いと正しい使い分け方、このページの解説でおわかりいただけましたでしょうか。最後にもう一度、正しい使い分けのポイントを以下に記します。頭の中の整理にお役立てください。
敬意 | 頭語 | 意味のイメージ | 結語 | 意味のイメージ |
高 ↑ ↑ ↑ ↑ 低 | 謹啓 | 「つつしんで申し上げる」と控えめな態度であいさつをする | 謹白 | 「包み隠さず真実を申し上げた」とあいさつをする |
謹言 | 「控えめに申し上げた」とあいさつをする | |||
拝啓 | 「つつしんで申し上げる」と丁寧にお辞儀をしてあいさつをする | 敬具 | 書き終わった手紙を丁寧に差し出す様子 | |
前略 | 「初めに書くべきあいさつを省略する」と述べる | 草々 | 「急いでざっと書いたので申し訳ない」と詫びる |