「観賞」「鑑賞」はどちらも「良さを認め味わうこと」ですが、「庭を観賞する/鑑賞する」「テレビ観賞/鑑賞」のように二種類の書き方がされているのもよく見かけます。一体どちらが正しいのでしょうか。
「観賞」「鑑賞」の使い分けは、①何の良さを、②どのように味わうのかに注目するとわかります。その違いを簡潔に表してみました。
①何の良さを | ②どのように味わうか | |
観賞 | 自然の中にあるものを | 見て、 心を楽しませながら、 |
鑑賞 | 芸術作品を | 見たり、読んだり、聞いたりして、 評価したり見きわめたりしながら |
このページでは「観賞」「鑑賞」の違いについて、詳しい意味と具体的な使い方とともにわかりやすく解説しています。
「観賞」「鑑賞」の意味と例文
まず、「観賞」「鑑賞」の辞書での意味を確認しておきましょう。
【観賞】
見てほめること。見て賞翫すること。また、見て楽しむこと。【鑑賞】
芸術作品などのよさを見きわめ、味わうこと。出典:『日本国語大辞典』
この辞書の説明を①何の良さを、②どのように味わうのかに注目して見てみましょう。
「観賞」は、①何の良さかは明確にされていませんが、②は楽しんで味わうことだということがわかります。「鑑賞」は、①芸術作品などの良さを、②見きわめて味わうことだということがわります。でも、この情報だけでは使い分けを理解することはできませんね。実際の例文を見ながら更に理解を深めていきましょう。
①何の良さを
まず、「何の良さを」観賞/鑑賞するのかから考えてみます。
以下の例文は、『広辞苑』『学研国語大辞典』『新明解国語辞典』などの七種類の国語辞典の「観賞」「鑑賞」の項目で紹介されていたものです。
・梅の花を観賞する。
・草花を観賞する。
・月を観賞する。
・観賞魚
・観賞植物
【鑑賞】
・絵画を鑑賞する。
・音楽を鑑賞する。
・詩文を鑑賞する。
・文学鑑賞
・名曲鑑賞
「観賞」の例文を見ると、その対象となっているものは植物や生き物です。また、「鑑賞」の例文を見ると、対象となっているものはどれも芸術分野の作品であることがわかります。このように「観賞」は「自然の中にあるもの」を、「鑑賞」は「芸術作品」の良さを味わうときに使われます。
ここで記事の冒頭での問いかけを思い出してみてください。「庭を観賞する/鑑賞する」「テレビ観賞/鑑賞」はどちらが正しいのかという問いです。
まず、「庭を観賞する/鑑賞する」についてです。「自然の中にあるもの」を対象にするのが「観賞」なら「庭を観賞する」が正しいはずですね。
確かに、より適切なのは「観賞」です。でも、「庭を鑑賞する」でも間違いとは言えません。なぜなら「庭」には美を追求して想像された芸術作品と言えるものもあるからです。例えば、京都の龍安寺の石庭を考えてみてください。世界遺産にも認定されているあの庭は、もはや芸術作品ですよね。自然のものであっても、ありのままの姿ではなく人の手が加えられて芸術的な価値をもつものには「鑑賞」を使うこともできるのです。
では、「テレビ観賞/鑑賞」のほうはどうでしょうか。テレビは自然の中のものではないので「観賞」ではなさそうですが、芸術作品であるとも言いにくいですね。このような場合は、どう考えるといいのでしょうか。そのポイントは「②どのように味わうか」にあります。
②どのように味わうか
「観賞」と「鑑賞」の味わい方には二つの違いがあります。
1.使う感覚の違い
まず一点目は、「使う感覚の違い」です。先ほどの例文をもう一度見てください。「観賞」の例文は、どれも「見る」ものであることがわかります。魚も花も月も、見ることでその良さを味わうことができます。一方で「鑑賞」は、絵画を「見て」、文学を「読み」、音楽を「聞く」というように、様々な感覚を利用していることがわかります。
「観賞」は「見て」、「鑑賞」は「見たり、読んだり、聞いたりして」良さを味わうときに使われます。
でも、「見る」感覚を利用することは「観賞」にも「鑑賞」にも共通しているので、「テレビ観賞/鑑賞」のどちらが正しいのかはまだわかりませんね。
では、もう一つの違いを見てみましょう。
2.目的の違い
「観賞」と「鑑賞」の味わい方の違いのもう一つのポイントは、「目的の違い」です。辞書での意味のところで既に触れましたが、「観賞」は心を楽しませることを、「鑑賞」は見きわめることを主な目的にしています。
このことは「観」と「鑑」の漢字が持つ意味を知るとより鮮明になります。
「観」は、「観賞」「観覧」「景観」などに使われていることからもわかるように「見物する」という意味を持っています。美しいものや珍しいもの、または面白いものを見て楽しむときに使われます。
「鑑」は、「手本や先例とくらべ合せて考える」という意味を持っています。「鑑識」「鑑定」「鑑査」などのように、ものの持つ性質や価値を判断したり評価したりするときに使われます。
では、ここでもう一度「テレビ観賞/鑑賞」について考えてみましょう。
テレビを見る目的は何でしょうか。娯楽番組を見て心を楽しませようとすることもあれば、報道やドキュメント番組で伝えられている内容についての理解を深め、評価や判断をしようとすることもあるのではないでしょうか。テレビは幅広い内容を伝えているため「観賞/鑑賞」のどちらでも使うことができるのです。
「観賞」「鑑賞」の違い、まとめ
「観賞」「鑑賞」の違いと正しい使い分け方、このページの解説でおわかりいただけましたでしょうか。
最後にもう一度、正しい使い分けのポイントを以下に記します。頭の中の整理にお役立てください。
①何の良さを | ②どのように味わうか | |
観賞 | 自然の中にあるものを | 見て、 心を楽しませながら、 |
鑑賞 | 芸術作品を | 見たり、読んだり、聞いたりして、 評価したり見きわめたりしながら |