「事典」「辞典」「字典」「辞書」。これらの言葉に厳密な区別はないというのが「辞典協会」の見解ですが、一般的には次のように使い分けられています。
種類 (業界用語) | 意味の違い |
事典 (ことてん) | 物や事柄の語を集めて一定の順序に並べ詳しく説明した書物 |
辞典 (ことばてん) | 語句を集めて一定の順序に並べ意味・読み方・用例・文法などを説明した書物(「辞」は言葉を意味する漢字) |
字典 (もじてん) | 文字を集めて一定の順序に並べ意味・読み方・由来・筆順などを説明した書物 |
辞書 | 辞典の古い言い方で意味は辞典と同じ。ただし書物名に「辞書」を用いている例は極めて少ない。 |
このページでは「事典」「辞典」「字典」「辞書」の意味の違いのさらに詳しい解説や、それぞれの言葉が持つ意外な歴史などを解説しています。
【事典、辞典、字典、辞書】意味の違い・種類・例・歴史
【事典】意味の違い・種類・例・歴史
「事典」という言葉の歴史は意外に浅く、1931年(昭和6年)に平凡社が『大百科事典』を刊行した際に新たにつくられた造語です。
それ以前は、物や事柄を説明した現代でいう百科事典も百貨辞典と表記され、実際に三省堂が1908年(明治41年)に刊行した書物のタイトルは『日本百貨大辞典』でした。
本来は「事典」の性質の書物でありながら「辞典」というタイトルを持った書物が存在するのは、決して誤用ではなく「事典」という言葉がなかった時代の名残りのようです。
なお、「事典」という言葉は、1960年(昭和35年)頃までは「事典」という言葉をつくった平凡社だけが使っていました。
百科事典、歴史事典、美術事典、医学事典、科学事典、用語事典、薬事典、配色事典
【辞典】意味の違い・種類・例・歴史
「辞典」という言葉の歴史も決して古くはありません。「辞典」が書物のタイトルに初めて使われたのは1878年(明治11年)。
「辞書」が一般的に使われていた当時、豊後国出身の国学者・物集高見(もずめたかみ)が明治という新時代にふさわしい新しい言葉として「辞典」という言葉を造語。
1878年(明治11年)に出版した『日本小辞典』で使われたのが最初です。
「辞典」と「辞書」の区別のしかたには様々な議論がありますが、そもそも「辞書」の新しい呼び方が「辞典」で、両者はまったく同じもの。区別が困難な理由はここにあります。
国語辞典、古語辞典、漢和辞典、英和辞典、和英辞典、独和辞典、和独辞典、仏和辞典、和仏辞典、類語辞典、表現辞典、語源事典
【字典】意味の違い・種類・例・歴史
「事典」や「辞典」と比べて現代人には馴染みのうすい「字典」の歴史は古くその由来は日本ではなく中国です。
清時代の1716年。清の康熙帝の勅撰により刊行された漢字字典『康熙字典』が「字典」のはじまりと言われています。
なお「字典」の前身にあたる言葉は「字書」。554年(天保5年)、中国北斉の魏収が編纂した北魏の正史『魏書(ぎしょ)』にその用例があることが確認されています。
字体字典、書道字典、筆順字典、かな字典、隷書字典、草書字典、行書字典、古文書解読字典、篆刻篆書字典
【辞書】意味の違い・種類・例・歴史
「辞書」という言葉も歴史は古く855年(斉衡2年、平安時代)に編纂が開始された歴史書『続日本後紀(しょくにほんこうき)』の中に用例が確認されています。
ただし、『続日本後紀』の中にある「辞書」は現代の「辞表」を意味し、現代と同じ意味を持つ「辞書」がはじめて登場したのは江戸時代末期と言われています。
なお、幕末に外国語辞書が相次いで刊行される中「辞書」「辞林」「字彙」などの言葉が普及しました。
1909年(明治42年)に刊行された『日本類語大辞典』の中で「辞書」の類語は次のように分類されています。(全分類の中の一部です)
【語の辞書】語林、辞林、語典、辞典、辞書、語彙、辞彙
【字の辞書】字林、字典、字書、字彙、字引
【事典、辞典、字典、辞書】意味の違い、まとめ
「事典」「辞典」「字典」「辞書」。これらの言葉は、それぞれを区別するために作られた用語ではないため、いわゆる「本来の使い方」がありません。
しかし、一般的には下記にまとめたような使い分けられています。
なお「ことてん」「ことばてん」「もじてん」は、出版業界の人たちがそれぞれを区別するためにつくった用語のため、区別の基準が明瞭です。
- 【事典】(ことてん)物や事柄の語を集めて説明した書物
- 【辞典】(ことばてん)語句を集めて説明した書物
- 【字典】(もじてん)文字を集めて説明した書物
- 【辞書】辞典の古い言い方で辞典と同じ