「首相」「総理」「総裁」。この三つの言葉を対比した場合の違いを区別するポイントは以下の通りです。
- 【首相】首席宰相の略。行政権の長を指す。日本の「首相」だけでなく海外の「首相」にも使える言葉。英語で「prime minister」。
- 【総理】内閣総理大臣の略。内閣総理大臣は、日本の「首相」の法律上の正規名称で日本独自の呼称のため海外の「首相」には使えない。
- 【総裁】首相や総理という言葉と一緒にニュースに登場することがある「総裁」は、自民党の責任者を意味し「首相」や「総理」とは立場が異なる。
このページでは、「首相」「総理」「総裁」の違いについて、お子さん向けのシンプルでわかりやすい解説。お子さんにするどいツッコミを受けた場合に備えた大人向けのやや詳しい解説の二つを掲載しています。
【お子さん向け】「首相」「総理」「総裁」
「首相」「総理」「総裁」の違い
「首相」と「総理」。これら二つの言葉は同じ意味を持っていますが、次に説明するような違いがあります。
「首相(しゅしょう)」は「首席宰相(しゅせきさいしょう)」を短くした言葉で、日本の「首相」にも外国の「首相」にも使える言葉です。
「総理(そうり)」は「内閣総理大臣(ないかくそうりだいじん)」を短くした言葉で、日本の「首相」には使えますが、外国の「首相」には使えません。
「首相」と「総理」は同じ意味の言葉です。しかし、「総裁(そうさい)」だけは「首相」や「総理」とは全く違う言葉です。
「首相」「総理」「総裁」。これら三つの言葉の違いは、それぞれの役割を知ることでもっとわかりやすくなります。
そこで、「首相」「総理」「総裁」の役割について説明します。
「首相」「総理」「総裁」の役割
日本にも外国にも、その国に住んでいる人たちが幸せに暮らしてゆけるように行政機関(お役所)というものがあります。
その行政機関の一番上の立場の人のことを「首相」と言います。
そして日本の「首相」は日本の法律によって「内閣総理大臣(総理)」という正式な呼び方が付けられているので、「首相」と「総理」は同じ意味、同じ人なのです。
一方で「総裁」だけは役割が違います。
「首相」や「総理」と呼ばれる人が「総裁」と呼ばれることもありますが、ここで言う「総裁」とは日本の政治家のグループ(政党)の一つ・自由民主党の一番上の立場の人のことを意味しています。
自由民主党の一番上の立場の人である「総裁」が、「首相」「総理」になることが多いので「首相」や「総理」、そして「総裁」は同じ人です。
ただしその人が「首相」「総理」と呼ばれるときは日本で暮らす人たちが幸せになるために働き、「総裁」と呼ばれるときは自由民主党のために働いています。
・「首相」と「総理」は同じ役割で呼び方が違うだけ
・「総裁」だけは役割が違う
【大人向け】「首相」「総理」「総裁」
「首相」と「総理」は同じ
結論から言うと日本国内において「首相」と「総理」はまったく同じです。
「首相」の正式名称は「首席宰相」で、行政権のトップを表す世界共通の言葉です。世界共通とは言っても、言うまでもなくそれぞれの国の言語による名称があり、英語では「prime minister」。英語での名称が実質的に国際標準です。
なお行政権のトップを表す「首相」は、それぞれの国の法律によって独自の名称が定められています。
例を挙げると、イタリアは「閣僚評議会議長」、ドイツは「連邦首相」。そしてわが国では「内閣総理大臣」略して「総理」です。
よって「首相」と言う場合、それは日本の首相を指す場合もあればドイツやイタリアの首相を指す場合もあります。一方「総理」は日本の「首相」だけを指す言葉です。
「首相、総理」と「総裁」は違う
テレビのニュースや新聞などで「首相」や「総理」などと一緒に語れる「総裁」とは、自民党総裁を意味しています。
過去数十年にわたって、わが国では自民党が政権を取ることが多く、政権を取った自民党の総裁が「首相、総理」に就任することが慣例となっているため、「首相、総理」そして「総裁」は同一人物である場合が大半です。
しかし同一人物であったとしても「首相、総理」と「総裁」は果たす役割も社会的な立場もまったく異なります。
なお、「総裁」と言う言葉は自民党という組織に限定された言葉ではなく、日銀など他の組織の責任者を表す時にも使われる汎用性のある一般名詞です。
マスコミなどでは「首相」よりも「総理」が多く使われていますがこれには理由があります。一つは「首相」よりも「総理」の方が発音しやすいこと。また「首相」と言った場合、海外の首相も含むためどの国の首相なのか特定できません。しかし「総理」と言えば日本の首相に限定されるためあらぬ誤解を避けることができます。また「総理」と言うたった二文字で人物を特定できるため、字数に制限のある新聞紙面で重宝されているのだそうです。
「三権分立」の基本/お子さんからツッコミが入った場合の備え
「首相」「総理」「総裁」の違いをお子さんに説明する際、次のようなツッコミをされる場合があるかもしれません。
- 「首相」や「総理」って一番偉い人?
- 「首相」や「総理」と「大統領」はどう違うの?
このツッコミに対しては「三権分立」の概念の基本を理解しておくと安心です。以下にその大雑把な内容をまとめますので、ツッコミに備えてください。
権力が一箇所に集中すると危険であることは言うまでもありません。一箇所に集中した権力を握った者を周りの誰もが止められなくなってしまうからです。
そこで、日本をはじめ多くの国々では「三権分立」と呼ばれる制度によって、権力を三っつに分散しています。三つに分散された権力とは以下に記す通りです。
- 【立法】国会。立法府。法律をつくる。(人々が守るルールを決める)
- 【行政】内閣。行政府。行政を司る。(人々が幸せに暮らせるために働く)
- 【司法】最高裁。司法府。法律を見張る。(ルールが守られているか判断する)
そして、この三つに分散されたそれぞれの最高責任者は次の通りです。
- 【立法】衆議院議長
- 【行政】内閣総理大臣(=総理、首相)
- 【司法】最高裁判所長官
もし、お子さんから「首相は一番偉い人?」と尋ねられた場合、一番ではなく三つに分けられた「偉い人」のうちの一人と説明してはいかがでしょうか。(なお、ここで言う「偉い人」とは「組織の最高責任者」という意味で他意はありません)
また「首相と大統領はどう違うの?」と尋ねられた場合は、大統領制のある多くの国では、大統領は「立法」「行政」「司法」三つの権力のすべてのトップをつとめている点が、首相と大統領の大きな違いと説明してください。
ただし、三つの権力のすべてのトップをつとめているからと言って大統領が首相より偉いと言うわけではないことも付け加えてください。
「首相」「総理」「総裁」の違い、まとめ
長い説明となりましたので頭の中が混乱したかもしれません。最後にもう一度、「首相」「総理」「総裁」の違いを区別するポイントを記しますので、頭の中の整理を行ってください。
- 【首相】首席宰相の略。日本と海外の「首相」にも使える言葉。
- 【総理】内閣総理大臣の略。日本の「首相」の法律上の正規名称。
- 【総裁】自由民主党総裁のこと。党(グループ)の最高責任者。