腐ってないのに豆が腐ると書く「豆腐」。腐っているように見えるにもかかわらずどういうわけか豆が腐るとは書かない「納豆」。
「豆腐」と「納豆」という漢字の意味がねじれているように見える理由。それは、「豆腐」と「納豆」が日本に渡来した際に品名を示す貼り紙を逆にしてしまったことで生じた誤用に由来する。
そんな説について、自分の実体験も交えながらその真相に迫ってみようと思います。
このページの目次
「豆腐」と「納豆」という漢字の意味は逆であるという説、2選
腐っているように見える | 製造工程で箱に納める | |
豆腐 | NO | YES |
納豆 | YES | NO |
箱に納めてつくる上に決して腐らせているわけではないのに「豆腐」。その一方で、見た目も匂いも腐っているみたいで、しかも箱に納めてつくるわけではないのに「納豆」。
食べ物の最大の特徴と漢字の意味が真逆になっているこの謎の理由については、昔から以下に述べるような、2つのもっともらしく聞こえる説が語られていました。
【1】貼り紙の貼り間違え説
「豆腐」と「納豆」が日本に渡来した時のこと。船の甲板に載せた「豆腐」と「納豆」の木箱に貼り付けられた、品名を示す貼り紙が突風で剥がれてしまいました。
船の乗組員はその貼り紙を元の場所に貼った・・・つもりでしたが、逆に貼ってしまったことには気づきませんでした。
この船の乗組員のうっかりミスが、そのまま日本に伝わってしまったという説。
ちなみに、筆者も20年近く前に誰かから聞いたことがあります。そして、ある時までこの説をずっと信じ続けてきました。
【2】日本国内でいつのまにか言葉の意味が反転した説
「豆腐」と「納豆」。二つとも正しい名前とともに日本に渡来したものの、長い歴史の中での誰かの誤用か何かがきっかけとなって、名前が反転してしまったという説。
平安時代に名前が反転したとも言われており、名前の反転した時期が特定されている点がリアル感満載ですが、こちらの説は「貼り紙の貼り間違え説」と比べてマイナーです。
「豆腐」と「納豆」という漢字の意味は逆ではないという説、3選
「豆腐」と「納豆」という漢字の意味は逆だ!という説があるその一方で、決して逆でも誤用でもない。「豆腐」と「納豆」という漢字の使い方は正しい!
そんな説もあることをご存知でしょうか?
【1】中国での「腐」という漢字の意味が「腐る」だけではない説
普段、私たち日本人が日本語だと思っている漢字は、もとをたどれば中国語です。そして本家本元の中国では、「腐」という漢字に「腐る」という意味以外に、日本にはないもう一つの意味があるんです。それは・・・
この言葉の意味、そのまんま「豆腐」ですね。ちなみに豆腐を発酵させたチーズによく似た塩漬けの食べ物で「乳腐」というものがあるそうです。
【2】納豆がお寺の納所で作られた豆料理だったから説
お寺の中にあった倉(納所)に保管してあった大豆が、いつのまにか発酵してしまい食べてみたところが美味しかったことから「納豆」と名付けられた説。
同じくお寺のお金の出納を行う部屋(納所)で、食べられていた豆料理だから「納豆」と呼ばれるようになった説。
お寺の納所説には上に述べた二説がありますが、いずれにせよ「お寺の納所」というのが最有力と言われています。
【3】殿様、帝に納めた豆料理だったから説
殿様(幕府)や帝に献上し納められた豆料理だったので「納豆」と呼ばれるようになったという説もあります。
しかし殿様(幕府)や帝への献上品は豆以外にも様々なものがあるはずです。しかし「納」の字がつけられたアイテムが他に見当たらないので、この説はちょっと怪しそうですね。
ちなみに煮豆を神前にお供えしたら、しめ縄に付着していた納豆菌の働きによって煮豆が発酵。神様に納めた豆なので「納豆」になったという、もう一つの「納」説も存在します。
大豆が発酵するのは藁にたくさん付着している納豆菌の働きによるものなので、藁=しめ縄がからむこの説は他の説よりも少しだけリアルですね。
漢字の意味は逆を木っ端みじんに粉砕する説、2選
「豆腐」と「納豆」という漢字の意味は逆なのか正しいのか?消去法で考えを進めてゆくと「逆だよ説」があっという間に消えてしまいます。「逆だよ説」は失格です。
【1】「納豆」誕生の地は縄文時代の日本説
「豆腐」と「納豆」という漢字の意味は逆であるという2つの説。いずれも、「豆腐」と「納豆」は中国から渡来したものという前提があります。
しかし、そもそもこの前提はあっという間に崩れてしまうことをご存知でしょうか。
結論から言うとネバネバする食べ物「納豆」は中国から渡来したものではなく、日本で誕生した食べ物であると言う説があるのです。しかもこの説、かなり有力です。
稲が日本に渡来する以前。縄文時代にはすでに大豆らしいものが日本にはあったことが発掘調査によって確認されています。
大分県竹田市にある横迫(よこさこ)遺跡と呼ばれる縄文時代の遺跡から大豆によく似た種子が出土しているのだそうです。そして縄文時代には納豆に似た食べ物がすでに存在していた可能性も指摘されています。
ところで縄文人の住居は稲ワラなどで作られています。
住居の屋根などに使われていた稲ワラに付着した納豆菌の働きで、住居の中に保管された大豆がネバネバになったことは十分に考えられるというわけです。
【2】「豆腐」という漢字を中国人も同じ意味で使っていた!筆者の目撃談
20年以上も前のこと。米国ロサンゼルスに行ったとき、現地の知り合いにチャイニーズレストランに連れて行ってもらいました。
そのお店はチャイナタウンのど真ん中に位置し、お客さんは自分たちを除けばみんな中国系の人ばかり。現地に住む白人も日本人も一人もいませんでした。
お店の店員さんが何人もいる大きなお店でしたが、店員さんの誰一人として日本語はおろか英語すら出来なかったので、現地の中国系の人だけが食事に来るお店のようです。
さて、そんなお店なので言葉がまったく通じません。でも注文するのはそれほど困りませんでした。
メニューはすべて漢字表記です。意味はなんとなくわかります。
そして、当時「豆腐」と「納豆」の漢字の意味は逆という説を信じていた筆者は、その店で衝撃の事実に遭遇したのです。
漢字ばかりのそのお店のメニューには「豆腐」という漢字がたくさん並んでいたのです。試しにそれを注文してみると、運ばれてきたのは日本人にもおなじみの「豆腐」料理でした。
中国人は、大豆から出来た半固形の食べ物のことを「納豆」ではなく「豆腐」と呼んでいました。日本人にもお馴染みの四川料理「麻婆豆腐」は、中国語を使う中国人に「麻婆納豆」とは呼ばれていませんでした。
この事実は「豆腐」と「納豆」が逆に輸入されたという説を覆す何よりの証拠です。
その後、台湾に行った時も現地のメニューの「豆腐」は日本の「豆腐」と同じでした。杏仁豆腐だけは日本の豆腐とはちょっと異なるものの少なくとも「納豆」ではありません。
また「臭豆腐」という気絶するほどすごい匂いがすることで有名な台湾料理も、その原料は日本の「豆腐」と同じです。
かくして「豆腐」と「納豆」の漢字が日本に渡来して逆転したという説は、海の向こうのロサンジェルと台湾でガラスのように砕け散ったのでした。
「豆腐」と「納豆」という漢字の意味は逆であるという説、まとめ
以上、「豆腐」と「納豆」という漢字の意味は逆であるという説はまずありえないと考えて差し支えないでしょう。
すると「納豆」の語源にも関わって来る二つの説だけが残ることになりますが、二つの説のうち、最有力と言われる「お寺の納所」説がもっとも信頼できる説と言えるのではないでしょうか。