仕事が終わった時に交わされる言葉「お疲れ様」と「ご苦労様」。一般的には部下が上司や同僚に対して言う場合は「お疲れ様」。上司が部下を労う場合は「ご苦労様」です。
しかしこの一般的な慣習に異を唱える人も少なくありません。このページでは、まずは一般的な慣習を解説し、一般的な慣習に従うことが円滑なコミュニケーションをはかる上において大切である理由についてまとめています。
このページの目次
「お疲れ様」と「ご苦労様」、職場での最も一般的な使い分け方
- 【お疲れ様】相手が自分より目上、目下、または同じ
- 【ご苦労様】相手が自分より目下
この使い分け方を「最も一般的」とする根拠は文化庁の「平成27年度「国語に関する世論調査」の結果について」の以下のデータです。
平成17年から平成27年にかけて、相手が目上であるか目下であるかを問わず「お疲れ様」を使うのが一般化しつつある傾向。「ご苦労様」は相手が目下の場合に限定されつつある傾向。この二つの傾向がこのグラフから読み取ることができます。
データ出典:文化庁「平成27年度「国語に関する世論調査」の結果について」
職場でのポジションで整理する「お疲れ様」と「ご苦労様」の使い分け方
職場での「お疲れ様」と「ご苦労様」の使い分け方の最も一般的な考え方は上に示した通りです。では、職場でのそれぞれのポジション(職階)に応じて「お疲れ様」と「ご苦労様」の二つの言葉を具体的にどのように使い分けたら良いのでしょうか。
新人の場合
新人の立場にある人はほとんどの場合、部下や後輩はいないはずです。上司か同僚、場合によっては上司しかいないケースもあるかと思います。
そのため、新人が使える言葉は「お疲れ様」に限定されます。
別の言い方をすると、新人は職場の中で「お疲れ様」と「ご苦労様」を使い分ける必要はありません。「お疲れ様」しか使えないのですから。
よって職場の人間関係の中では、上司や先輩、そして同僚に対しても使えるオールマイティな言葉「お疲れ様」だけを覚えておきましょう。
中堅の場合
最も混乱するのが中堅です。
年齢から言って上司もいれば部下もいます。時と場合によってはかつての先輩が部下になっているケースもあるかもしれません。
しかし、中堅になる頃にはさすがに「お疲れ様」と「ご苦労様」の使い分けで迷うことはないかと思います。
もし迷いが生じるとするならば、それは管理職になりたての人がまだ使い慣れていない「ご苦労様」を使うことに照れてしまう場合かと思います。
ところで上に示した文化庁の「国語に関する世論調査」によれば、上司が部下に対して「お疲れ様」と言うケースが過去10年間で増加傾向にあります。
昨今は上司が部下に対して「お疲れ様」と言っても自然に受け入れられるようです。「ご苦労様」を使うことが気恥ずかしい場合、無理をせず「お疲れ様」を使っても差し支えありません。
部下がいる場合
部下をたくさんお持ちの方は「ご苦労様」を使うケースがほとんどだと思いますが「ご苦労様」には感謝の気持ちを伝える意味合いが込められていることをご存知でしょうか。
その昔「ご苦労様」という言葉は感謝を伝える際に使われていました。
なので部下に対して「ご苦労様」と声をかける時、そこに意識して感謝の気持ちをのせることで、部下のやる気はさらにアップするはずです。
補足:配達員さんに声をかける場合、迷ったときの秘策
郵便局や宅配便の配達員さんに声をかける場合、「お疲れ様」と「ご苦労様」のどちらを使うべきなのか迷う方が少なくありません。
結論から言うと配達員さんに対する適切な言い方は「ご苦労様」です。
「ご苦労様」が身内に対しても外部の人に対しても使えるその一方で、「お疲れ様」は身内に対する言葉としての使い分けがされています。
よって外部の人である配達員さには「ご苦労様」と言いましょう。しかし、どうしても迷ってしまう場合の秘策をご紹介します。
秘策とはズバリ「ありがとうございました」です。
平成27年度の文化庁の「国語に関する世論調査」によれば、「ありがとうございました」が配達員さんに対してかける言葉のナンバーワンに浮上しているのです。
データ出典:文化庁「平成27年度「国語に関する世論調査」の結果について」
迷ったら「ありがとうございました」と言えば間違いない。
最も一般的な使い分け方を選ぶべき理由
一説によれば「お疲れ様」という言葉は昭和生まれ(1960年代)なのだそうです。日本語としては比較的新しい言葉と言って差し支えないレベルです。
この言葉がどこから生まれてきたのかについては諸説あるようですが「ご苦労様」よりも気軽に使える挨拶の言葉として普及したと言われています。
さて「お疲れ様」という言葉の歴史が浅い分だけ「お疲れ様」と「ご苦労様」の使い分けも浅くなり、歴史が浅いことを理由にして「お疲れ様」と「ご苦労様」の一般的な使い分けに異論を唱える人が少なくありません。
しかし、上の異論。学問としての言葉の正当性の議論と、コミュニケーションを円滑にするための言葉の選択の議論。二つの議論が混ざってしまっています。
以下に、コミュニケーションを円滑にするための言葉の選択の議論にフォーカスを絞って、「お疲れ様」と「ご苦労様」の使い分けの考え方を解説いたします。
円滑なコミュニケーションを図ることが本来の目的
日本国内の多くの職場では、仕事が終わった時などに部下が上司に、上司が部下に、そして同僚どうしがお互いに「お疲れ様」や「ご苦労様」と声を掛け合う慣習があります。
ところでこの慣習、そもそもの目的はどこにあると思いますか?言うまでもなく円滑なコミュニケーションを図るためですね。
社内コミュニケーションの良し悪しがその会社の業績を左右するのは周知の事実。だから、多くの会社はこのような小さなコミュニケーションの積み重ねを大切にしているのです。
ところで、以下に述べるような場面を想像してみてください。
仕事が終わり社員たちが「お疲れ様」や「ご苦労様」と声を掛け合っています。そんな中、物知りが自慢のAくんが言いだしました。
「一般的に言われている「お疲れ様」や「ご苦労様」の使い分けは俗説に過ぎない。ビジネスマナーは単なる間違いだ。だから、そんな挨拶はおかしい。即刻やめるべきだ!」
言葉の学問の世界であればAくんの発言は正論なのかも知れません。
しかし職場の中で「お疲れ様」や「ご苦労様」と言葉を掛け合うそもそもの目的からは大きく逸脱しています。これでは円滑なコミュニケーションなどはかれませんよね。
多くの人が理解を共有できる言葉を選ぶのがコミュニケーションを円滑にする大前提です。円滑なコミュニケーションが目的なのであれば、最も一般的な言葉の使い分けを行うことがその目的を達成するための一番の近道です。
誤用の使用率が正用の使用率を上回るなら、誤用ではなく変化
言葉の意味は時代とともに変化します。
例えば「おどろく」という言葉は現代では「びっくりする」という意味で使われていますが本来の「おどろく」にはそのような意味はありませんでした。
もともと「おどろく」という言葉は「はっと気づく」「目が覚める」という意味でした。
このような言葉の意味の変化は誤用から生じているとも言われおり、誤用の使用率が正用の使用率を上回るなら、それは誤用ではなく変化だという考え方もあります。
参考:国立国語研究所「コーパスを利用した言葉の意味・用法の変化の研究」
言葉の意味は変化します。それは事実です。
言葉の本来の意味を守り抜く姿勢も大事ですが、正論もそれが過ぎると机上の空論になりかねません。
言葉は変化するという事実を受け入れて、時代とともに変化する言葉の意味に対応する柔軟な姿勢が、円滑なコミュニケーションをはかることを目的とした言葉選びには重要なのではないでしょうか。
「お疲れ様」と「ご苦労様」、職場での最も一般的な使い分け方まとめ
「お疲れ様」と「ご苦労様」の使い分けには諸説ありますが、そもそも「お疲れ様」と「ご苦労様」を使い分ける目的はコミュニケーションを円滑にすることです。
議論の要となる「そもそも」を忘れないようにしたいものですね。
このページの記事が、あなたの大切な職場のコミュニケーションの活性化にいささかでもお役に立つことができれば幸いです。
- 【お疲れ様】相手の職階が自分より上、下、または同じ
- 【ご苦労様】相手の職階が自分より下